第86章 景色は色付いて
キリ「その他も、問題ない。退院の許可が出たから大丈夫」
こちらは、シカマルのように追い出されるような退院ではなく、正真正銘、正規ルートでの退院だ。
それも綱手のお墨付きとなれば、異常などあるはずがない。
そう言えば、安心したように胸をなでおろしたシカマルに、今度はキリが問いかける番だった。
キリ「私よりも、あなたの方。まだ痛むでしょう?」
シカ「あー俺ももう退院してんだ。痛くねぇよ。まあ、その時はかなり効いたけどな」
「やっぱ強いなお前」と、くつくつと冗談混じりに笑うシカマル。
そんな風に告げる優しい嘘が、いつもどれだけキリの心を軽くしてくれているか、きっとシカマルは知らないのだろう。
キリ「……ありがとう」
シカ「おう、それよりも大丈夫か?」
キリ「……? 怪我はないと言ったわ」
シカ「いや、そうじゃねぇ」
口に出すことをためらうシカマルに、ふとキリにもその心当たりが出来る。
シカ「あいつのこととか、よ」
その〈あいつ〉を指すものは、間違いなくナガレのことだろう。
キリ「………」
大丈夫なはずはなかった。
もう終わったことだと言うには、事態は大き過ぎて。
失くしたものが多過ぎる。
そして、ナガレとの関係は深過ぎたのだ。
キリ(でも……)
キリ「大丈夫」
昔のように。光が消えて行く中で、足下がなくなっていくような、心が追い詰められる痛みも気持ちも、今は感じていない。
自分でも驚くほど、落ち着いていて、そして穏やかな気持ちを保てている。
シカ「……」
本当かよと、無言で圧力をかけてくる心配性に、ふと笑みがこぼれた。
キリ「本当に。あなたが怒ってくれたから」