第74章 失くしたもの
今までシカクが与えてくれた沢山の愛情とこの恩を、これから嫌という程、返していくつもりだった。
父親は忍なのだと、わかっているが。
忍に、いつだって命の危険はついてまわるものだと、そんな事は充分承知しているつもりだったが。
シカ「……っ」
お前が俺に勝てるのはいつになるかと、ニヤニヤと、でもそんな未来を楽しみに笑うシカクの姿が。
お前が二十歳になったら、一緒に酒を飲もうと。その時が来るのを心待ちにしていたシカクの姿が。
頭に浮かんで、消えない。
シカ「親父……っ」
もうこの約束が交わされることがないのかと思えば、言い表す事が出来ない悲しみがシカマルを襲った。
出来てしまった大き過ぎる傷を、互いに塞ぎ合うようにして、寄り添い合った。
…………………………
その翌日。
シカ「あー……」
鏡に写る自らの姿に、シカマルは大きなため息をつく。
あの後、散々二人で泣いて。
いつの間にか二人して、居間で眠りについていた。
シカ「くそ……だっせぇ」
泣き腫らして、真っ赤に充血している瞳と、腫れぼったい瞼。
誰がどう見たって、頼りになる男の姿ではないだろう。
キリが今、どんな心境でいるのか、痛いほどにわかる。
ヨシノだって、どれほど深い悲しみを抱えている事か。
だからこそ、今は自分がしっかりしていなくてはいけなかったのに。
差し伸ばしてくれたキリの手に、縋ってしまった。