第74章 失くしたもの
謝って済むような問題ではないことは、わかってはいるが、それでも何度も何度も紡がれる謝罪の言葉。
これまでを説明する中でも、何度も出てきたそれに、二人はただ黙って話を聞き続けていた。
ヨシノ「21人の敵と……たった二人で……」
次の瞬間、ふわりと、キリは再度ヨシノから抱きしめられる。
ヨシノ「よく……木ノ葉に戻ってきてくれたね」
「連れて行かれなくて、本当に良かった」とヨシノは安堵の息をつく。
キリ「その、せいでシカクさんが……っ」
ヨシノ「父ちゃんは……キリを守ってくれたんだね」
抱いていたキリの体を離したヨシノが、シカクに視線を向けると、キリはギリギリと強く拳を握り締める。
ヨシノ「父ちゃんを誇りに思うよ」
キリ「っ!!」
言葉通り、命懸けで子供を守り抜いたシカクに、キリを無事に里へ返してくれたシカクに、それを誇りと言わずして何と言おうというのだ。
さすがは私が惚れた男だと、そう言ってヨシノは悲しい笑顔を向ける。
ぽんぽんと、最後にキリの両肩をたたいて、ヨシノはシカクへと視線を戻した。
ヨシノ「キリも、本当に大変だったろう。ここは私に任せて、今日は先に家に戻っておいで」
「ここ数日ずっと気も抜けなかっただろう」と、ヨシノが告げた時、突然何かに引っ張られる力を感じる。
キリ「!」
ぼすっとシカマルの胸もとにダイブしたキリの頭上から、声が落とされた。
シカ「キリと先に戻る」
ヨシノ「頼んだよ」
「ああ」と返事をしたシカマルは、そのまま有無を聞かずに、キリと治療室を後にする。
シカマルに支えられて、その場を後にしていたから。
だから。
この時、ヨシノの瞳から大粒の涙が溢れていたことに、キリが気付く事はなかった。