第74章 失くしたもの

キリ「っ、う……っシカクさ、っ」


酷く取り乱しているキリの背中を、落ち着かせるようにさすってやれば、尚更泣き始めるキリ。


シカ「！」


ぐっと、キリから胸もとを押されて、開いた距離に互いが顔を合わせれば、キリはぼとぼとと涙を流しながらも口を開いた。


キリ「私よりも、シカクさんを……っ」


そんな言葉を震える声で紡ぐキリに、ごしごしとシカマルはその涙を拭っていく。


シカ「馬鹿こんな状態のお前放っといたら、親父にぶっ飛ばされるっつの」


「ほら落ち着け」と、ぽんぽんと頭をなでるシカマル。


キリ(シカクさん……っ)


シカマルの頭をなでるその仕草が、シカクと本当によく似ていて、キリの涙は止まる事を知らずに、溢れ続ける。


シカ「母ちゃんも、もうすぐここに来るからよ」


同じ任務に出ていたシカマルとヨシノ。


長く忍をしていたヨシノは、残される側の辛さを良く知っていたのだろう。

それもその時、共に任務に出ていた相手ともなれば、尚更。


キリとシカクの状況を聞いたヨシノからは、ここはいいから先に行け、キリを頼むとそう言われた。


それから、少しずつ、落ち着きを見せ始めたキリ。

その後、数十分と経たずして、ヨシノもまた、治療室へと駆け込んでくる。


キリ.シカ「！」


キリ「ヨシノさーー」

ヨシノ「キリ！ 無事で良かった！」


「心配したのだ」と、そう言ってキリを抱きしめたヨシノは、キリの体を、頭から足まで大事はないかと、ぱたぱたと確かめるように触っていく。


キリ「……っ、私は、大丈夫です」


「良かった、本当に良かった」と、眉を下げるヨシノに、キリの胸が締め付けられる。


何故、この家の人たちはこんな状況でも、キリに優しくしてくれるのだろう。

泣きたいのは、キリよりもあなた達の方ではないのか。