第74章 失くしたもの
何故こうなってしまったのか。
数日前に、戻りたい。
あの日に戻って、どうかやり直させて欲しい。
そんな出来るはずもない馬鹿なことを、心の底から願った。
自分は、人生で何度こんな思いを募らせるのだろう。
あと何度、こんな過ちを繰り返すのだろう。
取り返しのつかない過ちを、何度重ねていくつもりなのか。
こんなキリに、無償の愛情を与え続けてくれたみんなに、会わせる顔がない。
シカマルとヨシノに、自分はどの面を下げて会えるというのか。
押し寄せる後悔と罪の意識、シカクを失う悲しみと恐怖、シカマルとヨシノを思えば苛まれる激しい胸の痛み。
全てがぐしゃぐしゃになって、キリの身体を包み込む。
自分でも、どうすればいいのかわからないこの感情に、次々と何かが潰されていく。
そんな時だった。
バタバタと急ぐ足音が聞こえてきてすぐに、治療室の扉が勢いよく開かれた。
シカ「キリ!! 親父!!」
その声に、キリが扉の方へと顔を向ければ、目の前いっぱいにシカマルの姿があって、その両手が伸ばされた。
キリ「!」
宝石を握りしめて、座り込んでいたキリに合わせて、シカマルもその場に膝をつくと、そのまま強くキリを抱き寄せる。
震える背中と、キリの後頭部に手を回して、シカマルはキリの頭をぎゅっと自分の頬に合わせた。
シカ「キリ……!」
何故、シカマルは自分を抱きしめているのか。
今は、シカクが大変なのだとキリは、涙声でそう零す。
キリ「シカクさんがっ……」
シカ「ああ、わかってる」
キリ「もう、目をっ……」
シカ「焦んな、ゆっくりでいい」