第3章 もう一つの呼吸
昔、富岡が最終選別を受けた時の事。
錆兎という少年が、富岡を助け、藤襲山のほとんどの鬼を一人で倒してしまった。
唯一、鬼殺隊に入る前の人が倒せるはずがない、そこに居るはずのない強い鬼に負けて、亡くなってしまったという。
名前が最終選別を受けた時にもその鬼は居たはずだ。
しかし名前は運良くその鬼には出会わずに、その他の鬼をほとんど倒していた。
「俺は錆兎の姿を名前と重ねていた」
本来なら錆兎がなるべきだった水柱の座。
自分はこの座に着いていてはいけない。
だが錆兎はもう居ない。
だから早く水柱に相応しい人にこの座を空け与えなければと。
言葉が出なかった。
富岡さんもその時の無力感を払拭するために必死に修行し、血と汗を流し、柱まで登りつめた。
なのにまだ、その無力感と闘っている。
柱になれば富岡さんと同じ地位になる。
自分も柱として周りを導びいていけるか不安だ。
天の呼吸、一族の誇りに傷を付けないか不安だ。
その不安定さが、今身に染みて分かるから。
どれだけの重圧があるか分かるから。
『富岡さん、俺は俺です。貴方の代わりにはなれない』
今は逆に突き放す事しかできない。
『すいません……』
「いや、いい。俺の方こそすまなかった」
いつか、この人をこのしがらみから解放できるような人は現れないのだろうか。
……
「義勇、名前、オヤカタサマガオヨビダ」
暫く沈黙が続いて居たが、それを破ったのは富岡の鎹鴉だった。
富岡のみならず、名前まで一緒に呼ばれている。
「分かった、すぐに行く」
富岡はそう鎹鴉に言うと立ち上がり、名前も続けて立ち上がりった。
『なにかあったのでしょうか。俺まで呼ばれるなんて』
中々富岡と思うように話が出来ないで居たので少し話し掛けずらかったが、名前は小走りで富岡を追う。
「最近、鬼が群れながら住まう山があると聞いていた。十二鬼月がいる可能性がある場合に、呼ばれる事になっている」
成程と相槌をうつ。
十二鬼月がいる可能性があり、尚且つ群れている。
名前に緊張が走った。