第3章 もう一つの呼吸
日の呼吸の先祖が一族を二つにした時、日の呼吸を継承しなかった方は日の呼吸と対になるもう一つの呼吸を作った。
その名は、天の呼吸
それは日の呼吸を補完する呼吸であり、のちの水の呼吸の原型となるものであった。
日の呼吸の剣士が次々に鬼舞辻に殺されていく中、後世に鬼舞辻と渡り合える剣士が現れるまで守り抜くために、その呼吸は一族の一部の継承者のみに教えられ、普段は水の呼吸を使いその存在を隠していた。
『お館様……それは……』
名前は天の呼吸の柱になれと。
その呼吸を公にする事とは。
それはつまり、鬼舞辻にその存在を知られるという事。
「先程、竈門炭治郎が浅草で鬼舞辻と接触したとの連絡が入った」
『……!!それは本当ですか……!?』
「これは大きな進歩なんだ。もし名前の言う日の呼吸の継承者なら……これは進歩だ」
鬼舞辻と炭治郎が接触したなら、鬼舞辻にも耳飾りの事は知られているだろう。
炭治郎は現状を次々に変えていく。
「名前、柱になり鬼殺隊を支えてくれ」
……
四年前の最終選別の最終日。
選別が終わり、名前は通例通りに刀の素材を選び、隊服を仕立て、そして帰路についた。
藤襲山の鬼は名前がほとんど殺していた。
同期もほとんど生き残り、皆に感謝され、談笑しながら帰ったのを覚えている。
家のある街へ入った瞬間、背筋が寒くなるような感覚がした。
街の空気が違う。街の人々がまず少ない。
もっといつも賑やかなのに。
嫌な予感がする。
その時、街の顔見知りのお婆さんが(名前)の姿を見て顔を真っ青にして寄ってくる。
「名前!!」
気がつけば家の前に居た。
漂う血の匂い。
藤襲山で散々血の匂いを嗅いでいるのに、今にも吐きそうなぐらいだった。
汗が頬を伝う。
『父さん、母さん……』
玄関の奥にある居間。
そこには鬼に食い荒らされ、父親と母親だったであろう肉片が散乱し、部屋一面、赤に覆われていた。
あの日、そこにあった鬼が居た気配。
親の肉片をかき集めるより先に、その気配を追った。
しかし鬼の気配は途切れた。
最終選別を通過しても、剣の技術をどれだけ磨いても。
家族を守れないのであれば……