第25章 余裕な彼
「ふっ…ううっ、やっと、やっと名前…呼んでくれたぁ……!怖かったぁ…っ、わぁんっ!」
名前を呼んでくれたことと、腕の中に閉じ込められた事にホッとして、今度は子供のように泣いてしまった。
この涙は、攫われて脅されて売られて…と、怖くて仕方がなかった涙。
気をつけろと言われていたのに、いとも簡単に敵の罠に乗せられ捕まってしまった愚かな自分への悔し涙。
そして、信長様が助けに来てくれて、叱られて、でも許してくれた安堵の涙。
その全部がこのこぼれ落ちる涙には詰まっている。
「この阿呆が、心配させおって……」
「ふっ、ううっ、ごめんなさい。信長様、ごめんなさい」
互いの着衣は乱れ、体は繋がったまま抱き合うように座っているという何とも言えない状況下だけと、温かくて心は急速に落ち着きを取り戻して行く。
(こんな仲直りの方法もあるなんて知らなかった)
「よく顔を見せよ。怪我はしておらんな」
「平気です。信長様は?」
「大事ない」
「良かった。私の不注意のせいで迷惑をかけてしまってごめんなさい。でも助けに来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます」
首に巻きついて、伝えなければならない言葉と気持ちを伝えた。
再開してから結構経つのにようやくこの会話に辿り着いた。
「貴様に何かあれば正気ではいられんと言ったはずだ」
「本当にごめんなさい………」
とても心配をしてくれたのだと、密着した体から伝わる信長様の鼓動の速さで分かる。
どんな時でも余裕な信長様が見せた炎のような激しさは、毛利元就や女衒の男よりも今回ダントツで怖かったけど、でも心があるとないとでは全然違っていて、怖かったけど、でも大切な事として私の心に深く刻まれた。