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(HQ) 結婚するまで帰れません 岩泉一

第8章 好きになる準備


「やめろって。そういうの恥ずいから」
「でもいざ試合になったらそっちに集中しますよね」
「そりゃそうだろ?」
「そうじゃないと困ります。私、本気で応援するので本気で戦ってくださいね」
「本気しかねぇに決まってんだろ?だから俺も試合に出れるように練習頑張らねぇと…」
「じゃあ試合に出られるようにお参りでもしようかな…。御百度参りとか?夜中に行きましょうか?」
「やめろ。嫌な念も籠りそうで怖ぇわ」
「そうですか?」
「お前の場合本気でやりそうだな。やめろよ?」
「夜中はさすがにしないですけど…」
「昼間もすんな」
「はぁーい、分かりました」

そんだけ純粋に応援してくれる気持ちも悪くはねぇんだけどこいつの場合はどこまで本気で言ってんのかいまいち掴めねぇ。本気で夜の神社とか行ってそうだしな…。

「すっかり青葉の季節になっちゃって春も終わりですね」
「そうだな」
「まだこっちに来て二ヶ月も経ってないのに毎日があっという間に過ぎてってます。出会ったころより随分仲も良くなったと思うんですけどどうですか?」
「まぁな…。否定は出来ねぇよな」
「じゃあ、一つ言っておきますね」
「改まってなんだよ」

芽衣は急に立ち止まる。振り返ると真っ直ぐに俺を見て自信に満ちた表情で口角を上げた。

「そろそろ私のことを好きになる準備、しといてくださいね」

“覚悟”の言葉に昨夜の自分の抱いた感情と重なって暫く言葉を失ってしまった。“……分かった”そう言い返す前に芽衣は何かに気付いて声を上げた。

「あ……」
「なんだよ」
「ずっと先に及川君の姿が見えるので私コンビニに寄ってから登校しますね。一君は先に行っててください。ではまた学校で」
「あ、……おい」

俺の問いかけも聞く耳持たず慌ただしくコンビニへと走り出した。何故か先を歩く及川が俺に気付きまたでかい声で叫んでいた。

「朝からうるせぇな…」

俺一人残された不満にそんなボヤキも溢れてまたため息が出る。

好きになる準備ねぇ…。んなもん準備する暇もなく気持ちは勝手に動いてんだよ…。


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