第4章 不器用
≫一side
それは連休前の土曜日の出来事だった。その日は朝からからっと晴れていて夏日を思わせるほど気温は上がり暑さ慣れをしていない午後からの練習は体力的にもきついと感じる程。頭から水をかぶっても及川にホースで水をかけてもあっという間に乾く、そんな1日だった。部活終わりにコンビニで買った冷えた飲料水が喉を潤す瞬間が最高に気持ちいい。
今日は及川もいないし明日は練習は午前だけだし解放的な気持ちで少し浮かれていた。
家の近くまで来た時、明らかに歩き方のおかしい奴が前から歩いてくる。上下ジャージにキャップを深々と被って一見ヤバい奴なのかと思ったけど近付くにつれ、それは明らかに見覚えのある顔だった。いつもと違うのは俯きがちでしんどそうな表情だったこと。
「おい…」
「……え?」
俺の声に反応して顔を上げるとやっぱりあいつで頬は紅潮している。
「あ、…一さん」
「お前歩き方おかしくねぇ?顔色も悪いけど」
「あ、はい…、ちょっと調子悪くなっちゃって」
「どうした?」
「お天気が良かったから草むしりしてたら気分悪くなってきて。暑気しちゃったのかなって思ってたらなんとなく息苦しくなってきて…」
「はぁ?お前、そんなんでどこ行こうとしてんだよ」
「経口補水液、買いに行こうと」
「家ん中涼しくして水分摂れって」
「でもクーラー、まだなくて」
「馬鹿。だったら先に病院だろうが…っ、近くの内科、確か土曜も開いていたから」
ふらつきそうな体を支えると頼りない声で“ごめんなさい”と呟く。
「いいから。それより今、なんか飲みもんとか持ってねぇのか」
「…ない」
周りを見ても近くに自販機もないし目に入ったのは俺がさっきコンビニで買った飲料水。
まだ冷えてるし半分くらいは残ってる。いやでも飲みかけだし。なんて一瞬の迷いも辛そうな表情を見ると待ってもいられない。
「飲みかけで悪い。さっき開けたばっかだから」
「ありがとう…」
「鞄の上座っていいから」
こんなところでぶっ倒られるよりはマシだ。こういう緊急事態には小さい事は関係ねぇ。