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(HQ) 結婚するまで帰れません 岩泉一

第2章 涙の理由


≫一side


俺の身に起こった出来事が全部夢ならいいのに。夜中になって目が覚めて一瞬夢なのか?とも思ったけど鮮明な記憶に現実を突きつけられた。

「なんで俺なんだよ」

呟いてみても誰も応えてくれない俺の部屋の窓から見えるあいつのアパート。こんなに近かったったっけ?って嫌でも意識してまう。

灯りのついていないその部屋。あいつの言った通りに一度地元に帰ったようでその日から春休みが終わる前日までは俺もいつもと変わらない日々を送ることができた。だから部活帰りにあいつをあのアパートで見かけた時、やっぱ夢じゃなかったんだなってため息しか出なかった。




道路に面した縁側には変わらないジャージに眼鏡姿で手にはカップラーメン。俺が近付いても気が付かない様子でぼんやりと一点を見つめたままでなんか悲しそうな顔して一瞬泣いてんのか?って思った。

そのまま立ち去るべきなのに何故か足は止まって何かが引っかかる、そんな感じだった。俺の前では自信満々に後悔してないとか言ってたのに、結局泣いてんのかよってなんか納得できなくて、ただ単純に泣いてる理由が知りたかった。

「冷めるぞ、それ…」
「へ?」

俺を見るなり驚いた顔をして慌てて涙を拭う。どう見たって泣いてる様子だった。

「今、帰りですか?」
「そうだよ」
「部活、お疲れ様でした。……バレー部、なんですね」
「なんで知ってんだよ」
「初めて会った時にも思ったんですけど持ってる鞄がバレーボールのメーカーだったから」
「ああ、そうだ。詳しいんだな」
「そんなことないです。地元でも同じものを持ってた友達がいたからたまたまです」
「そうかよ」
「ポジション、聞いてもいいですか?」
「……ウイングスパイカーだけど
「そんな気がしました。真っ直ぐに攻めるって感じで」
「バレー、詳しいんだな」
「ほんの少しだけ…」

ポジションまで聞かれるとは思っていなくて意外だった。言ったら失礼なんだけど見た目は運動が好きそうにも得意そうにも見えない。
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