第19章 花割烹狐御前にて(昼)
三つ巴で対峙するこの状態になってから早数分
目の前の二人は無言でにらみ合ったまま動かない
敵うなら今すぐこの場から逃げたい
ギュっと鬼灯様の袖を握る
それに応える様に此方をちらりと見てから
「あなた、何しにここまで来たのですか?」
そう冴えた声で鬼灯様が言う
「っ………」
その言葉に白澤が声を詰まらす
ああ、やっぱりアタシの勘違い
彼ほどのヒトが誰か特別な人を、それもアタシを選ぶなんてありえない
鬼灯様の陰から体を出す
それを見て白澤が何か言いたそうにしていたのを遮って声を出す
「白澤様、何も言わずに出てきて済みませんでした。私は今此処で働いています。…もう、店に帰るつもりはありません。」
大好きな人に向き合う
けれど口から出るのは淡々とした言葉だけ
・・・だからこそ伝えられる。
きっと、コレが初恋で初告白なんだろう
今の自分の表情が判らないけど、どうか笑顔であります様に
「今まで有難う御座いました。貴方様の幸せを願っております。」
深く頭を下げ目を瞑る
目尻が冷たい
どうしてまた泣きそうになるのかな?アタシは
これで最後かもしれないのに、どうしてもうちょっと耐えられないかな
そう思いながら顔を上げようとした次の瞬間、瞳に映ったのは 白だった。
反応する間もなく背中に支えを感じれば急に体が宙に浮く
「何も言わずに彼女を連れて何処に行くつもりですか?」
その声と同時に目の前を黒い何かが凄い勢いですり抜ける
どうやら鬼灯様が投げた金棒の様だ。見事に床に突き刺さっている。
「それとも何も言う事がないとでも?」
鬼灯様の問い正す様な声が胸に刺さる
白澤は何も言わないで鬼灯様を睨んでいる
「・・・ある。」
そう真上から声が聞こえた瞬間、体が更に浮くように揺れて
唇を塞がれた。
驚いて目を開ければ
「石榴…君が好きだ、愛してる。」
そう優しく笑う貴方がいた。
アタシもソレに応える様、白澤にキスをして
その体にしがみ付き応えた。
「アタシ、も・・・大好きっ!」