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【鬼灯の冷徹】君という花【R15】

第17章 月を憶える


ほんの少しの間呆然と泣いているとお店の入り口が騒がしくなってきた
やっぱり彼か。そう確信してよろよろと廊下を進む
抱きしめた三味線の弦が指に食い込む
自室まであと少し、角を曲った途端に何かにぶつかる
勢い余って後ろにひっくり返ってしまう
「!、何事ですか…おや、貴方は」
その声にデジャビュを感じながら顔を上げる
会いたかったような、会いたくなかった人が目の前に立っていた。

「此方の不注意でぶつかってしまい申し訳ありません。重ね重ねお詫び申し上げます。」
そう謝って足早に立ち去ろうとすれば彼に手を掴まれる
驚きを顔に出さない様に振り返れば冷えた瞳が私を見下ろす
「何故この様な所に?あの色摩についぞ感化されましたか。」
「…いいえ、自ら出てきました。彼とはもう何の関係もありません。」
「では自らこの様な所へ?」
その言葉に次ぐ偽りの言葉が出てこない
「職に貴賤はありませんよ。…行く宛てがなかった私を妲己様が拾って下さいました。ただそれだけです。」
「では彼女から伝って錦木さんが此処にいると知って来たのかもしれませんよ?」
その言葉にアタシの口からは笑いがでてくる
一頻り笑った後挑戦的に彼、鬼灯様に嗤いを向ける
「私が此処にいると知っていて、彼が私を覚えていて、なおかつ彼が私を好いているなら…もっと早くにいらっしゃると思いますよ?」
「それが貴女の答えですか。」
舌戦の後、此方も負けじと彼の細く鋭い眼を見つめ返す
ホント、見れば見るほど似てて心折れそうになってくる
「他にご用がないようでしたら失礼したいのですか?」
強く言葉を紡ぎながら掴まれていた手を振りほどこうと動かすも、うんともすんとも動かない
「…………!………」
遠くで彼の声が聞こえた気がした。

再度視界が滲むけど一歩先に踏み出す
「…お話があるなら客室で聞きますから、どうか此処から離れて頂けませんか?他のお客様の迷惑にもなりますし。」
そう告げればほんの少し驚いたような不思議な顔をしてから溜息交じりに
「・・・強情張りだから余計に性質が悪い。良いでしょう、その話乗りますよ。」
掴まれていた手首を離され彼の方を向いて部屋案内しようと口を開きかけた時

「石榴ちゃん!!」

貴方の叫び声が聞こえて振り返る
息の上がった貴方の姿が見えて
おもわず彼の陰に隠れてしまった
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