第15章 初めての感情
宵闇の明かりの中、兎従業員さんが小屋の中に帰っていく
小屋とお店の扉に鍵をかけてから静まり返ったお店を眺める
彼は、白澤は先程出かけて行ってしまった。
物が溢れ返っている空間なのに空っぽに感じる。
普段彼が座っている椅子、暇な時に頬杖ついてる簡易机、そのどれもに「何か」が足りてないのが分かる
悲しくて苦しくて、欲しいと思った時にはもう急ぎ足で彼の部屋に向かっていて
扉を開けて倒れ込む様に寝台に横たわる。
薬草とお酒とアタシじゃない女のヒトの匂いが混ざった場所
「約束」と交わした夜も、男装を止める切欠も、体調を崩したあの日も…アタシは此処で過ごしたんだ
そう思ったら、もう、感情が溢れだしてしまった。
そして認めてしまった。
「・・・・・すき。」
初めて口にした、その言葉が虚しく響く
「・・・すき、なの・・・」
口から溢れる声が自分の耳に届く度に体が震える
「白澤の事、が・・・・・好き。」
自分の体を抱きしめてポロポロと涙を流す
「約束」なんて面倒事を避けるために適当に考えただけで、まさかこんなに好きになる人が現れる訳ないと思ってた。
本気で好かれても好きになっても困るだけ、そうずっと思ってた。
適当にHして、適当に仕事して、適当な時期になったら出て行くつもりだった。
・・・・だけど、もうダメだ。
今更「愛してる」なんて言ったらこの関係が壊れる事くらい分かる
それを超えてまで告白する利点が見つけられない
かと云って言わないでいたら何時の日かアタシが壊れてしまう。
どうすれば相思相愛に出来るかなんてわからないし、考えた事もなかった
怖い。
今まで逃げたツケだ。こんな時どうすればいいか判らない
この恋に気づいてしまった時点でもうこの「ゲーム」は詰んでるんだよ
「・・・今夜、これで終わり。」
そう決めて布団に潜り込む。
布団の中で貴方に買ってもらった服を、下着を脱いで一糸纏わぬ姿になる
それから胸一杯に貴方の香りを吸い込む
最後に此処で貴方の思い出に果てたら、旅立とう
失うかもしてないなら手放してしまえ。
前とおんなじ根無し草でいい
そう考えてアタシは貴方の手を思い出して自分の体に手をかけた…