第11章 違和感
あの夜から三日過ぎた。
次の日は時に変わらず服装も錦木のまま接客をした。
何人かのお客さんに「本当は女性だという噂を聞いた」と問われたので「その通りです。誤魔化すような事をしていてすみませんでした」と謝った。
何人かの方に泣きだされたり、思いの丈をぶつけられたり、叩かれたりした。
アタシの事本当に好きだった人がいたんだってはっきり分かって胸が痛かった。
二日目は妙にお客さんが増えた。
アタシは相変わらず袴姿だったけど、行燈袴にして髪を降ろして大垂髪を結った。
沢山の人がアタシをじろじろ眺めた。
けど、ここで引く訳にはいかない。いつも通りに笑顔で接客を続けた。
幸い暴言を吐いたり言いがかりを吐いてくる人はいなかった。
夜、お店を閉めてから扉の前で何か音がしたけど放っといた
で、今日。三日目の朝。
完全なる女装(髪を降ろして此処に来た時に着ていた女物の着物)姿で日課の兎従業員さん達を放牧しようと扉を開けばお店の前には一通の手紙と朝霧草の花束があった。
「どっちの意味かな、コレ。」
「そんなの手紙を見れば分かるでしょ?そんなにおどおどしちゃって石榴ちゃんらしくない。」
いつの間にか横に来ていた白澤が手紙を開ける…剃刀とかはなかったようだ。怖くて内容を見れなくて急ぎ足で兎さん達の小屋に近づき扉を開く
足元に近づいて来てくれた仔を抱き上げて此方を見上げてくる優しい瞳を見つめ返す。背中を撫でてあげれば気持ちよさそうに鼻をひくつかせる
横目で彼を見れば手紙を読んでいるのか何時になくまじめな表情だ
「アタシ、此処にいていいのかな?」
小さな声でつぶやく。
最初は別に騙していてもいいと思ってた。幸せな夢を見せてあげてるんだから怒られても飄々としてればその内過ぎ去ると思ってた。
だけどいろんな思いを見るうちにアタシがどんだけ酷い事をしてきたかって分かって、だからこそその気持ちを受け止めないといけないって分かった。
考え込んで俯いていればアタシの上に影が落ちる。驚いて兎さんを手放せば彼が手を伸ばして見下ろしている
「『お慕い』してますだって。良かったね錦木くん…さ、お店開けるよ。」
その手を取って立ち上がる。朝靄の中に桃源郷が見える、嗚呼こんなに世界は綺麗だったんだ。
「はい、今日も一日頑張ります。」
繋がれた手を握り返せば自然と笑えた。
