第11章 違和感
今夜も彼は自室で誰かと二人きり。
予定よりも随分早く来た女性に急かされて畑に出ているのを呼びに行けばふてくされていた顔はニコニコした顔に変わり、店の入り口で待ちわびる彼女に片手を振ってから
「お疲れ様、今日はもう帰っていいよ。また明日何時もの時間にお願いね。」
といつもの調子で厄介払いされ(た振りをして裏口から倉庫に戻るけど)それからずっと私は自室(倉庫)の掃除をしているる。
…初めて白澤と遊ぶ人の顔を見たけど、すっごく綺麗だった。
アタシみたいに外の作業で焼けてない陶器みたいに艶やかな肌をして、泥や野草じゃない芳しい花の香りを纏った「お嬢さん」だった。
正直比較してしまって、何時もみたいな営業スマイルで笑う事が出来なかった。
彼女の綺麗な顔を思い出してはモヤモヤして・・・なんか落ち着かない。
別に外に出ていって飲んでしまえばいいのに、それをする気持ちにもなれない。
今日のお相手はどうやら話し好きの様で壁の向こうからは時折高い笑い声が聞こえる。それ以外は静まり返った部屋に音が響いて気付かれても困るからラジオを付ける事も出来ない
「つまんない。」
寝台に倒れ込み枕を抱え込む。結んでいた髪が解け、半着の裾が大きく開くけど気にせず布団の上で転がる
窓のないこの部屋では地味に毎日時間のずれる置時計(これもこの部屋から発掘した。いまどきネジ巻き式ってのが凄い。かわいいけど)しかなくて、それもまだまだ夜の入り口といった時刻を示している。
「…お手洗いでも行こう。」
枕を抱きかかえたまま立ち上がる。素足に冷えた床の感触が心地いい
そろりと部屋の扉を開けてお店に飾られている風鈴を鳴らす。これは「部屋の外に出る」という彼との合図。そのまま急いで部屋の中を進む
今思うと風鈴なんて鳴らさなきゃよかった、と後悔している