第1章 --死後の世界って不思議ですね--
道路沿いにある植込みから1匹の猫が顔を覗かせる。
私が助けた猫だった。
その猫が私に歩み寄ると、お座りして私を見下ろす。
『よか……った、いき…て…て……』
この猫を見ていると、不思議と騒がしかった周りの雑音が途端に聞こえなくなり、まるでこの世に1人と1匹しか存在しないのではないかと錯覚させられる。
そして体の痛みが次第に無くなっていく。
あぁ…もう死ぬんだな、と自分でも分かった。
なんて呆気ない人生。
人はこんなにもあっさり死んでしまうんだ。それとも私だけだろうか。
でも最期の人生、人の……いや、猫の役に立てて良かったと思う。
《ワタシを助けてくれて、ありがとう》
『い…え……』
猫の口元の動きに合わせて声が聞こえた。
最期に猫と会話が出来るなんて思ってもみなかった。
やっぱり死にたくないなぁ……この事を誰かに自慢したい気分だ。
《これからアナタの人生は、きっと楽しい》
『…………』
《でも決して忘れないで。アナタの死が必然だったように》
『…………』
《彼らの死も、必然ダカラ》
彼らとは誰だろうか。というかこれから私の人生は楽しいの?
一体どんな天国だろう。
待てよ?天国で人生を送るんだったら彼らの死って?
《…じゃあ、楽しい楽しい新たな人生を》
ねぇ!ちょっと待って!
天国にいる彼らの死を悲しまないでって事なの?
それとも天国から地上で生きる彼らの人生を曲げないでって事なの?
それだけ教えてええええ!!!
───────……
はっ!!
夢……だったの、かな…。
いや、夢なんかじゃない。トラックに轢かれた時の痛みはあるし、今もまだ体中痛い。
て事は生きてるの?でもあの猫は私の死は必然って言ってたし、ここは天国?
ていうか泥臭!天国ってこんなにも泥臭いの!?
体の痛みが残る中、立とうとした瞬間にバランスを崩してその場にこてん、と転がった。
こてん?ドシンじゃなくて?いや、私そんなに重くはないんだけどさ…
てか人間ってもっとこう、目線高くない?
それにお店もあるし車も走ってる。
え?今時の天国には道路って存在するの?
そして私はここに来て初めて自分の体を見た。
『にゃあーーー!?(毛深いんだけどおおおお!?)』
私の新たな人生は、猫でした。