第12章 束の間の安息と初めましてと二度目まして※
「…っ…だって…杏寿郎さんが…激しくするから…!」
熱い口付けに完全に飲まれてしまったのを指摘された私は、恥ずかしさを隠そうとそんなことを口走ってしまった。
けれども
「…っ…覚えておくといい」
なんの脈絡もなくそう言った杏寿郎さんに、私の頭に疑問符が浮かんでくる。
「…覚えておくって…何をです?」
そう尋ねた私に、杏寿郎さんはグッとその端正な顔を寄せてくると
「そんな風に言われてしまえば…もっとしてやりたいと思うのが男という生き物だ」
そう言いながら
「…っんあ!」
スルリと私の合わせ目に右手を滑り込ませ、私の胸の飾りをスッと指先で撫でた。
…やだ…!私ったらまた…!
耳に届く自分の甘い声が聞きたくなくて、私は先程そうしたのと同じように自らの手で口に蓋をしようとした。
けれども
「駄目だ。俺は鈴音の声が聞きたい」
杏寿郎さんの左手がサッと私の両手を掴み、頭上で纏め上げられてしまった。
「…やだ!離し…っん…ふ…」
"離してください"
と言いたかったのに、撫でるだけでなく、指の腹で潰してきたり、弾いてきたり…止まらない甘い刺激に、声を抑えるので精一杯だった。
杏寿郎さんは懸命に声を出すまいとしている私をジッと見つめ
「…そんな風に快感に耐えている君の顔は…一層可愛らしいな」
明らかに興奮した顔をしながらそう言った。
…杏寿郎さん…やっぱり情を交わす時…凄く意地悪だ…!
杏寿郎さん本人は加虐趣味はないと言っていたが、されている側の私からすれば杏寿郎さんはそうしている時とても嬉しそうな(よりいやらしいと言った方が相応しいのか)表情をするし、私が恥ずかしがるのをわかっていてわざとしないで欲しいとお願いしたことをしてくる節がある。
もちろん私が本気で嫌がることをしてきたりはしない。私の
嫌だ
駄目
しないで
の裏側にある隠したい本音を見事に見つけ出し、それを引き摺り出してしまうのが酷く上手いのだ。