第38章 諦めない権利
そんなある日。
だいぶ怪我人の治療が終わり、
静けさを取り戻しつつある講堂で
エマに包帯を交換してもらっていたジャンは
心配そうな顔でエマを盗み見る。
涙袋は珍しく隈が目立ち、
顔色があまり優れない。
眠れていないのか?
ジャンは心の中で何から聞いていいのか、
と考えを巡らせていた。
「……さっきから何、
人の顔ジロジロ見てるの?」
ジャンの視線を感じたエマは、
包帯を巻く手を止める。
「いや、……疲れてんのかな、って思って。」
ジャンは一旦考えを中断し、
エマから少し視線を外す。
「……どうなんだろう。」
「おい、自分のことだろ。」
ジャンはつい突っ込みを入れると
「そうなんだけど、
自分でもよく分からないんだよね。
身体はそんな疲れてる気もしないし。」
エマは呆気らかんと答えた。
「でも明らかに顔色悪いけど……
また夜な夜な悩み耽ってるんじゃねぇのか?」
ジャンはそう言って、
エマの反応を窺う。
「うーん。
今は、そんなに悩んではないかな……」
エマはそう言った後、
思い立ったようにジャンに視線を向け、
「そう言えば、私、別れたんだよ。」
と、若干血気のこもった声で言った。