第32章 結婚予想図
「その頃から、
私は特に安定志向ではなくなっていたので……
クロルバ区の店にいる時は、
とにかく何事もなく、
平和に、平凡に生活できれば
それでいいと思っていたんですけどね。」
エルヴィンはエマの話を
興味深げに聞き入る。
「外の世界を見ると、
それが全てじゃないってことに気付かされて。
平凡で、平和な毎日もいいですけど、
たまには混乱することがあったり、
戸惑うことがあったり、
泣いたり、怒ったりする日々が
少しくらい続いてもいいなぁって。」
エマは頬杖をつき、エルヴィンを見た。
「と言うか、それがなければ、
平凡な日々のありがたさって
感じられなくなると思うんですよね。」
エルヴィンはエマの髪を撫でると、
「そうだな。同感だよ。」
そう言って優しい表情で笑った。