第24章 生きている価値
エマは長髪の男に手を引かれ、
路地裏を通り、
薄暗い倉庫のような場所に来た。
倉庫の中は埃が舞い、
暗闇をますますぼやけたものにする。
そして、
ここで何を行って来たのかに気付けるほど
鼻につく男の種の臭いが、
エマの不安を煽る。
暗いところはだいぶ慣れてきた筈だったが、
鼓動の音が嫌に早く、
自分が強い恐怖を感じていることに気付くのに、
そう時間はかからなかった。
長髪の男の仲間の一人が、
エマをパイプ椅子のようなものに座らせ、
手を後ろで括りつける。
「そんなことしなくても、
逃げませんけど。」
エマは長髪の男を注視した。
「分かってるけど、一応、ね。」
男の目はギラついている。
いつ何をしてくるのか予測ができない。
あの時と同じ目をしていることから、
この男がまだ薬物から
離れられていないことを察する。
「俺たちも早く楽しみたいんだけどさ。
団長さんの前でヤるってのも、
面白そうじゃない?」
この男には良心や罪悪感
という類の感情が欠如している。
こんな人間に、何を言っても、
もうどうにもならないのだろう。
エマはただただ、エルヴィンが
ここに来ないことだけを強く祈った。