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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第20章 月嗤歌 ED Side A - II【別邸組 *♟】


コツ、コツ……と闇に包まれた廊下に足音が響く。

ヴァリスの部屋へと続く廊下を歩きながら、ハナマルは一人思考を巡らせた。



(ヴァリス……。)

稀有な彩色を纏う、儚げな美貌を持つ少女。

けれどそのたおやかな外見に反して、折れぬ二つ矢のような優しさと芯の強さを宿すひと。



邪念を払うように頭を振り、みずからの掌を見下ろす。

その手のなかにあった気つけ薬の硝子の小瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。



「ふぅ、………苦いねぇ」

ぐっとぞんざいな仕草で唇を拭い、気づけば彼女の部屋の前へと到着していた。

ノックをしようとして、室内から仄かに聞こえたのは苦しげに吐き出す吐息の音。



(……まさか)

気づけば室内へと足を踏み入れていた。そして、そこで目にしたのは。



「は……!?」

苦しげに呼吸をしながらユーハンにしがみつくヴァリスと、

そんな彼女を胸に抱きしめて、仄かに震える儚い背をさするユーハンの姿だった。



両者とも一糸纏わぬ姿で、今まで何をしていたのかを嫌でも悟ってしまう。
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