第1章 俺と君とどっぽっぽ
俺を、見て欲しいなんて。
そう思ったら、また体が勝手に動く。
―――パシッ!
髪に触れそうになった俺の手を、彼女の手が弾いた。
手が、熱くなる。
弾かれた手を見て、俺はやっぱりおかしいんだと思った。
少し悲しいのもあるけれど、それより少しでも彼女の手に触れられた事の方が、嬉しく感じてしまう。
女相手にこんな事を思うなんて、自分でも信じられない。
俯く彼女を見下ろすと、今まで気づかなかったけれど、店から甘い香りがしている。
見ると、かなり可愛らしい見た目のお店がある。
彼女が見ていたのが、ここだったのを知って俺は少し震える手で、緊張しながら口を開いた。
「う、うち、に、来ない?」
凄く、不審な顔をされた。
それは当たり前だ。完全に誤解されている気がする。
「あ、えと、独歩ちんもいるしっ! みんなで、ご飯とかっ! 俺、料理には自信あるんだっ!」
しどろもどろになりながらも、必死に話掛ける。
女が駄目なはずの俺が、何故彼女と必死に繋がりを持とうとしているんだろう。
自分でも訳が分からない。けど、彼女の中に俺という存在を、もっと刻みつけたくて。
どうしてこんな事を思ってしまうんだろう。俺らしくもない。
彼女は一瞬考えてから、小さく消え入りそうな声で呟いた。
「あ、甘い、もの……とか、作れます、か?」
遠慮気味に、チラリとこちらを見て直ぐにまた俯いてしまった。手は履いているスカートを握りしめている。
「うんっ! 作れるっ! 君の好きな物、何でも作るよっ!」
駄目だ。浮かれてる。
女性恐怖症だと発覚してから、ジャケットを着てない状態で、こんなに長く女といるなんて、信じられない。
独歩ちんも先生も、驚くだろうか。
正直、俺が一番驚いてるんだけど。
二人で家までの道を歩く。その距離はだいぶ開いている。
寂しさを感じながらも、彼女が男苦手だと言っていたのを思い出す。
仲間意識みたいなものも、俺の中で何かを生んでいるのだろうか。
緊張感の中に、くすぐったさみたいなものを感じながら、家路に着いた。
部屋に通すと、寝ぼけた顔の独歩ちんが、頭を掻きながら大きな欠伸をして部屋から出てきていた。
こちらに気づいた。