第3章 君が欲しくて
気づかなかったとは。
「お前、の事好きなのか? あいつは女だぞ? 大丈夫なのかよ? しかも、あいつは男嫌いだろ……難しいんじゃないのか?」
「何? 彼女取られるの嫌だとか?」
「アホか。ただ、お前ら二人で大丈夫か心配なだけだ。出来る事はするつもりだし、お前がこれを機に少しでも女嫌いを克服してくれたらいいとも思ってるよ」
久しぶりに独歩が微笑むのを見て、何処か安心する自分がいる。
だって、多分独歩と俺とじゃ俺がどれだけ足掻いた所で、勝者は決まってるから。
ただ、後は向こうの気持ちだ。彼女が独歩を好きな場合、俺にはもうどうする事も出来ない。
そこが一番肝心だ。
家に着くまで、幸せだった気持ちが一気に沈んだ。
数日後。
今日は休みだけど、店に用事があったから店に寄った帰りの事だ。
店から少し離れた場所で、男に呼び止められた。
「僕に何か用かい?」
振り返ると、数人の男が立っていた。
こういう事は、この仕事をやっているとよくある。
女をお前に取られたと、こうして絡まれるのはしょっちゅうだった。
「僕にそれを言われても、僕にはどうにも出来ないよ」
相手に必ず返す言葉。けれど、こんな事で相手が納得してくれる訳はなかった。
そして、今回は相手が悪かった。
まさか、後ろから不意をついて殴られるとは思わなかった。これは完全に油断していた自分のミスだ。
人気のない場所に連れて来られ、複数に囲まれて、朦朧とする中で暴行を受ける。
気が済んだのか、誰もいなくなった後に痛む体に鞭打って、
帰ろうと試みる。
けれど、それも少し歩いた所で足に力が入らなくなる。
「っ……これは、結構っ……ヤバいなっ……」
人気がない住宅街の、ゴミ捨て場近くの道の端に座り込む。
ゴミ捨て場なんて漫画みたいだなと笑って、息を吐いて空を仰ぐ。
「……伊弉冉、さん?」
顔を動かすのすら億劫なのに、この声にはどうしても反応してしまうから困る。
「あー、ちゃんだー。ちょりーっ……ぃてててっ……」
「だ、大丈夫ですかっ!? 一体どうしたんですかっ!?」
「ははは、ちーっと油断しちったー……っ……」
いつも通り明るく見せようとしても、無理だった。