第37章 姫の年越しシリーズ(2025年)・1月1日
「う、うん」
そんなに急いで報告することでもないけど秀吉さんが公にしたいなら任せるだけだ。
秀吉「寒いからもう帰ろう」
遠くに長い行列が見えていて、並び直したら日が落ちてしまうのは明らかだった。日を改めて出直すことにして秀吉さんと手を繋いで歩き出した。
「初詣は信長様の命令だったけどいいの?
女中頭の首を斬るって言ってたけど…」
秀吉「信長様にそんなことを言われたのか。
俺がうまく言うから安心しろ。俺は初詣よりも何よりも、舞と恋仲になれたことを早く知らせたい」
「そ、そう?私はちょっと恥ずかしい…」
秀吉さんは恥じらう私を愛でるように撫で、『今夜は松湯にするのか?』と聞いてきた。
「松湯?って何?」
秀吉「松湯は年の初めに入る湯だ。松の葉を煮だした湯を浴槽の湯に混ぜたものだ。
不老長寿や繁栄を願って入るんだが知らないのか?」
「うん。しょうぶ湯とかゆず湯みたいに季節湯ってことだよね?」
秀吉「そっか、じゃあ今度温泉にでも行くか?
季節湯を楽しませてくれるところに連れてってやる」
握っていた手がほどけて指の隙間に太い指が入り込んできた。
指と指の甘やかなふれあいに蕩けてしまいそうだ。
「温泉は入りたいけど、この時代って確か男女別になってないんだよね?」
(つまり温泉に行こうは一緒にお風呂に入ろうってこと?)
いやらしい自動変換機能がはたらいて顔が茹ったように熱くなった。
涙も凍るくらい冷えているのに私の顔はタコみたいに真っ赤だ。
秀吉「まあ…そうだな」
(や、やっぱり!!)
誘っておいて秀吉さんも顔が赤くなってるし、どうしたらいいんだろう。甘すぎる空気にトロトロと溶けてしまいそうだ。
(恥ずかしいけど行きたい…)
兄妹で悩んでいた私達とは思えない展開だ。乾物屋のご主人じゃないけど、私達は今ぜったい甘酸っぱい。
秀吉「悪い。急ぎ過ぎたな。嫌ならいい」
「えっ!?い、い、いい、嫌じゃない!!
行くに決まってるじゃないっ!」
誤解を解きたくてやけに気合が入った返事をしたから、秀吉さんが目を丸くしている。