第34章 呪いの器(三成君)
「返してくださいっ。それは大事な物なんです…!」
三成「舞様。残念ですがその簪は一度調べる必要があります」
「え…」
簪を取り返そうと光秀さんに食ってかかっていると、突然三成君の声がして私は振り返った。
いつ開けられたのか隣室の襖が開き、厳しい顔つきの三成君が立っていた。
眼鏡をかけているところを見ると読書の最中だったのだろうけど、それにしても何か核心を得た強い口調が気になった。
「なんで……?」
一番近くで私達を見ていた三成君なら確執はなかったと言ってくれると信じていたのに。
三成君にまで疑惑をあおるようなことを言われて、この場で孤立した私は信じられない思いで恋人を見た。
三成「聞いてください、舞様。
あなたの体調不良を家康様が解明できなかったので、医術以外の本を集め、原因を探っていました」
「医術以外って……。それで…?」
凄い勢いで調べ物をしているのは知っていたけど、邪魔しないようにしていたから内容までは知らなかった。
私に問われ三成君の顔に緊張が走った。
三成「呪詛の類(たぐい)です」
「呪詛っ!?じゃあ、何?
千代姫が私を呪ったっていうのっ!?」
親友だと思っている人にあらぬ疑いがかかり頭に血が上った。
最後まで聞かなくてはとわかっていても、千代姫の人柄や思い出が甦って強い口調になったのは仕方なかった。
私に激しく言い返されて三成君が辛そうに眉をよせた。
信長「興味深い。光秀、貴様も三成の話を聞いてから行け」
光秀「はっ」
千代姫に呪われているかもしれない。それを全くの他人事として『興味深い』と表現した信長様が恨めしい。
怒りと悔しさで膝に乗せた手が自然と拳を作っていた。