第34章 抱きしめてそばにいて
「おい五条、お前最後にまともに寝たのいつだ。酷い顔色だぞ」
前方から歩いてきた硝子が珍しく足を止め僕を見上げる。
「まぁ僕元々色白だし」
「そういう意味で言ってるんじゃない、分かってるだろ。わざわざ言わせるな」
寝れるわけがない。
そんなのお前だって分かってんだろ。
「だったらほっとけよ、別にオマエに関係ないだろ。何か硝子に迷惑かけてんのかよ?」
あきらかに八つ当たりをしている僕に、硝子は心底呆れた様な表情を向けたあと、わざとらしく大きな溜息を吐き出した。
「私にじゃない、お前レベルに24時間殺気立てられてる周りの身にもなれ。迷惑だ」
「はっ、そんなの知ったことかよ。今の僕はまともじゃない、嫌なら近寄るなと全員に伝えとけ」
「本当お前は、いつまでたってもガキのままだな」
「ガキで結構、僕は僕のやりたいようにするさ」
「そんなんじゃリンが悲しむぞ」
「何それ…悲しいのは僕の方なんだけど」
「だったら尚更、ちゃんと寝て食事もしろ。これじゃああの時と同じじゃないか…」
硝子の言っているあの時とは…高専二年のあの時の事だろう。リンが大きな傷を負い目を覚さなかった数日間のこと…
あの時の僕も…今の様に生きた心地がしない中、リンが目覚めるのをただひたすらに待っていた。
リンはあの日から…
僕を待っていると約束したあの日から
5日間、一度も目を覚ましていない。