第33章 ただ君だけを愛してる
アイツら揃いも揃って逃げたようだね。初めから逃げの打算は付いてたってわけか。
「五条さんッ!!」
珍しく伊地知の焦った声があたり一面に響き渡る。
「今度はどうした伊地知、そんな大声出しちゃって」
目の前のうじゃうじゃと湧き出る呪霊を片手で祓いながら、汗だくの伊地知に視線を移した。
「影千佳さんがッ」
その名前を聞いた瞬間。喉の奥が凍りついたような感覚になり、ヒュッとした変な呼吸音が自分の口から漏れ出る。
「影千佳さんが家入さんの所へ運ばれましたッ!!」
「は?」
リンが硝子の所に運ばれた。その意味を理解出来ないほど馬鹿じゃない。
「発見された時にはすでにかなりの出血でッ…意識も無かったそうです…他の術師を庇い一人で相当な数を相手にしていたようです」
それなのに…伊地知の言っている意味が…耳の奥を通り過ぎ抜けていく。リンが…
その次の瞬間には、硝子がいるであろう負傷者を運び込むビルの前に立っていた。
急いで目の前のガラス張りのドアを開ける。中には負傷した術師や補助監督で溢れている。
その中をぐるりと見渡す事もなく、硝子のいる場所へ真っ直ぐに走り出した。