第30章 紙切れ一枚
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夕日に照らされた高専の廊下をゆっくりと歩く。
僕は上着のポケットへ手を入れると、カサっと音を立て指先に触れたそれを取り出した。
そこには【婚姻届】と書かれた紙が一枚
実はプロポーズした次の日、柄にもなく待ちきれず役所に取りに行ったモノだ。
「ははっ、僕がこんな紙切れ一枚に必死になるなんてね」
自分がプロポーズをする日が来るなんて思いもしなかった。
結婚したいと思う日が来るなんて思いもしなかった。
自分の両親を見て…そんな物に意味を見出せるわけがなかったし。興味すら持てなかった。
なのに今ではどうだ。
プロポーズをして良い返事をもらって、早く自分のモノにしたくて、法律でも何でも良いから彼女を縛っておきたくて、そうすれば安心できるような気がして…
「どっかの地下室にでも閉じ込める方がよっぽど僕らしいのに」
僕はフッと小さく笑うと、再びその紙を眺めたあとポケットへとしまった。
呪術界の上層部と五条のお爺ちゃんどもを黙らせないといけないな。
彼女に不安な思いはさせたくないからね。
「さてと、来週の入籍にむけて呪術師最強の五条悟 頑張っちゃいますか〜」
両手をポケットへと突っ込むと、オレンジ色に染まる廊下を早足で歩き始めた。