第29章 五条家当主
その後は夜になり、豪華で美味しいご飯がたくさん運ばれてきてまるで旅館にでも来たような気分だった。
食後はもう一度悟と一緒に露天風呂に入って、浴衣も悟が着せてくれて、今は二人で部屋の縁側で夜の中庭をのんびりと眺めている。
「ご飯美味しかったなぁ」
「そう、それは良かった。だけど僕は断然リンのご飯の方が好きだなぁ」
「へへっありがとう、嬉しぃ」
ここら一体は五条家の土地で、街からは離れているからだろうか。明かりが少なくて星も月も良く見える。
「月、綺麗だね」
空を見上げながらそう呟けば、隣から悟の「そうだね」という優しい声が聞こえてくる。
二人で手を繋ぎながら、寄り添い夜空を見上げるなんて…とても幸せだ。
昼間はあんなにも忙しい時間を過ごしていたのに、それがまるで嘘みたいに穏やかだ。
「私、5年後も10年後も…もっともっとずっと先も、私と悟の手がシワシワになってヨボヨボになっても…ずっとこうして悟と二人で手を繋ぎながら綺麗な月を見ていたいな」
私のそんな本音の言葉は、すんなりと口からこぼれ落ちるように溢れ出して…そしてそっと隣を見上げれば、サングラスの隙間から少し驚いたような表情をした悟が私を見下ろしていた。