第29章 五条家当主
伊地知君の運転していた車が静かに止まると、悟は「今日はもう高専には行けないから頼んだよ」と言い残し、再び私を抱き上げ車を降りた。
私はそんな伊地知君へ急いでお礼を言うと、慌てて私を抱き上げている悟を見上げる。
「悟、私歩けるよ!」
目の前には辺り一面同じ作りの石垣の塀が並んでいる。それは肉眼で見える限り長々と続いていて、この辺りの膨大な土地が五条家の物だということが見て分かる。
「反転術式で傷は治せても、疲れまで取れるわけじゃないでしょ。黙って僕に甘えてな」
こんな広い土地を持った呪術師最強の当主様の家に入るのに…当主本人にこんなふうに抱き上げられてたら目立って仕方ない…というか…絶対に周りの人からしたら何なんだって感じでしょ。
「悟っ、私本当に降りるってば」
悟の胸元をぐいぐいと押し退け彼の腕から逃れようとするが、もちろん私が悟のパワーに勝てるはずもなく…もいうかむしろピクリとも動かない…
そして私の抵抗も惜しく、私はそのまま悟に抱えられながら大きく聳え立つ門をくぐった。
しばらく続く石畳みの道の先には、あの日一度だけ見たことのある純和風な大きな建物が目に入る。
そして悟は何の躊躇もなくその中へと私を抱えたまま入ると、目の前にいた数人が早々と頭を下げた。
「おかえりなさいませ、当主様」
手前にはスーツを着た男性が二人。
奥には使用人らしき女性が三人いる。