第24章 引越し
「…さとるっ」
「ん?カフェならもう会計終わってるから大丈夫だよ」
「…違うよっ、そうじゃなくて」
穏やかな口調なはずなのに…とても穏やかには感じられない。それどころか悟の未だに出し続けている呪力。それがピリピリと肌に感じる。
だけど悟はそんな私をただ早足でそのままビルの物陰へと引っ張ってくると、バンっと勢い良く壁へと押し付けた。
「もしかしてリン、僕にビビってる?」
「それは…それだけ悟に呪力ダダ漏れにされてたら誰だってビビるよ」
「ははっ、でもコントロールが狂うくらい呪力ダダ漏れにさせてんの誰だよ」
目を見開くようにして笑う悟はからは、いつもの余裕はなくて…その瞳には鋭さがこもっている。
悟が持っていた紙袋が落ちていく音がする。
遠くの方では、人の話し声や車の音なんかも聞こえる。
だけど何よりも私に一番届いていたのは、きっと…自分の心臓の音。
悟が呪力コントロールが狂う?そんなわけない…きっといつもの私ならそう思っていた。
でも目の前の悟を見て…
悟の瞳とそのオーラを見て…
「リンは本当に、僕を狂わせるのが上手いね」
ニヤリと口角を上げる悟を見て
私は悟を心から怒らせてしまったんだと…心底そう思った。