第12章 二人の背中
それから数日しても、傑が見つかる事は無かった。
もちろん、高専の寮に帰ってきた形跡だってない。
傑が何かに悩んでいた事に、気付いていたはずなのに。
どこかいつもと違う彼に…気付いていたはずなのに。
「ごめん、ちょっと喫煙所寄っていい?」
「うん、良いよ」
最近硝子は煙草の本数が増えた。そんなの当たり前だ…あまり口には出さないけど、硝子だって傑を心配しているんだから。
「火、いるかい?」
硝子が喫煙所に入ろうとした時だった。
その聞き慣れた声に…
私達が間違えるはずのないその声に…
私と硝子は勢い良く後ろへと振り返った。
そこにいたのは、私服姿の傑……
「やっ」
傑はニコリと笑い片手を上げると私達へと近づいて来た。
「…す、ぐる…」
「犯罪者じゃん、何か用?」
動揺する私とは違い、硝子が冷静にそう答える。
「一応聞くけど冤罪だったりする?」
「ないね、残念ながら」
「………っ…」
「重ねて一応、何で?」
「術師だけの世界を作るんだ」
「術師だけの…世界…?」
「ははっ、意味わかんねー」
「子供じゃないんだ、誰でもかれでも理解して欲しいとは思わないさ」
そう話す傑は、まるで私の知らない人のように思えて…
「どーせ誰も理解してくれないって腐るのも、それなりに子供だと思うけど?あ、五条?夏油いたよ。そ、新宿」
傑と話しながら、携帯をいじっていた硝子は悟に電話をしていたらしく、電話越しには悟の怒鳴る声が聞こえてくる。
そんな悟に「ヤダよ、殺されたくないもん」と硝子は答えると、それを横目に傑は歩き出した。