第10章 雪の夜
次の瞬間には、私達は煌びやかでまるで料亭のような純和風な建物の入り口前に立っていて。悟は私を抱き上げたまま石畳を歩くと、入り口の前でそっと下ろした。
どこだろう…ここ…
悟は再び冷えたままの手で私の手を握ると、その入り口を開け中へと入っていく。
すると中にいた数人が、こちらに気が付き頭を下げた。
「「「悟様、おかえりなさいませ」」」
そう言って深々と下げられる頭。
え…もしかしてここって…
「悟、ここってもしかして悟の実家?」
「そうだけど」
「え?何で私いきなり悟の実家に連れて来られたの?」
前を歩く悟の背中に向かってそう言うけれど、悟はちゃんと答える気がないのか無視をしてくる。
「ちょっと、無視?」
「静かにしろ、バレるだろ」
「バレるって何が?」
パタパタと悟の長い足に合わせるようにして、小走りをしている時だった。
「悟様」
凛と透き通るような声だと思った。
それは緩やかで甘く女性らしい声で悟の名前を呼ぶ。
だけど、名前を呼ばれたにも関わらず目の前の悟は足を止めるどころか、私の手を引いたまま歩き続ける。
「ねぇ…悟?」
そんな悟に私は握られていた手を軽く引っ張るけれど、止まってはくれない。
呼ばれてるけど…無視するの…?
「悟様、婚約者の私を置いてどちらに行かれていたのですか?」
その女性の言葉に、今まで無視していた悟の足がピタリと止まった。
「え…婚約者…?」
口に出すつもりは無かったのに、あまりの衝撃に思わず漏れてしまった言葉。
それを聞いた悟が「チッ」と大きな舌打ちを落とす。