第18章 for the future
ほんの数十秒間の出来事だと思うけど、心臓の音が聞こえるくらい密着して、ただ黙って強く私を抱きしめていた。
どうしたの、とも聞けない雰囲気。
"不安?" 一瞬そんな思いが体から伝わった気がした。どこか覚悟を決めているような、悟ですら知り得ない未知の感情を振り払っているような感触だった。
「生きて帰ってきて。信じてる」
悟の耳元に口を寄せて、今度ははっきりと言った。
「応」
悟は再び余裕たっぷりの笑みを見せると、私に背を向け、トンと地を蹴った。
体が宙に浮く。空高く舞い上がっていく。
粒になって点になって何も見えなくなるまで悟を見届けた。
どこまでも青空が続いていた。そして雨が降った後でもないのに、大きな虹のアーチが掛かっていた。
青空を彩る七色の虹。――小さい頃、私が憧れていた空の景色だった。
「大丈夫、悟は必ず無事に戻ってくる。宿儺が受肉した恵くんの肉体を奪還して」
私はお腹の赤ちゃんに手をあてて、冬の空に向かって微笑んで見せた。
【完】