第4章 隠し味
風を切るような猛ダッシュも虚しく、私は電車に乗り遅れて、仕事場には8分遅れの到着となった。
呪術廻戦の五条悟が突然うちに来まして……なんて弁解をするわけにもいかず、ただすみませんとマネージャーに頭を下げる。軽く注意を受けた後、ロッカールームに入りいつもの3倍速で制服に着替えた。
私の勤務先は某ファミリーレストランで、準社員として働いている。朝10時にファミレスに出社して19時まで働くのが定時だ。
正社員ではなく準社員として採用になった理由は、はっきり聞かされた訳ではないけれど、おそらく額の傷と既往症が原因だろう。
傷の方は、前髪で隠せるし、ファンデーションでわかりにくくすることも出来るけど、既往症の方は完治しているとは断言出来ず、それが面接の際に引っかかったのだと思われる。
いずれにしても私は採用してもらえた事をありがたく思っているし、食事している人の笑顔が多く見られるファミレスという場所が好きだ。
職場の人間関係もさほど悪くない。ナナミンがサラリーマンしてた時のような利益至上主義の上司もいないし、誰とは言わないけど、無茶振りして振り回してくるような人もいないので、ストレスは少ない方なのだろう。
この近くには大学や専門学校があり、夜は学生さんがバイトのシフトに入っているから残業も少ない。