第3章 下着
「一応お別れの挨拶しとこっかな……。五条先生、生で見れて眼福でした。さよなら」
「ハグでもする?」
「いやいいです」
んな時間はない。玄関のドアを開けようとノブを持つ。
「そうそう最後にこれだけ言っとくよ」
引き止めるように声を掛けられたから振り返った。
「似合ってたよ、クリーム色」
「……」
なに? 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
私はてっきり、この流れからして、"千愛でよかった" みたいな "ありがとう" みたいなことを喋るのかと思ってた。
全く予想してない言葉に、身体が固まって、じっと五条先生の目を見る。見つめ合うこと数秒……。朝の洗面室がまんまフラッシュバックして来た。
「もぉぉぉー、今すぐ忘れて! なんでそれ言うの? 意味わかんない」
「だってこれで会うの最後かもしんないじゃん? だったら言っとくべきでしょ。後々気にならない? あんとき僕はどう思ったのかって」
やっぱり呪術師って、最強って頭ぶっ飛んでる。死に際の言葉ばっかり聞いてると、別れの言葉は下ネタに落ち着くの? わけわかんない。
この人に付き合ってると、どんどん時間がなくなっていく。こっちは電車に乗り遅れそうなんだよ! 先生はひらひらと手を振った。
「行ってらっしゃい」
「ナナミンばいばい」
先生をスルーして、玄関に飾ってあるナナミンぬいに、よしよしする。先生を見ると、無視はないでしょって顔してるから、五条先生にも行ってきますって小声で言った。ドアを勢いよく開けて、外に向かって飛び出す。
ダッシュぅうー! 駅まで全力疾走する。こんな毎日なんだろうか。時間も心もいっぱいいっぱいだ。余裕がない。
お願い先生、早く呪術廻戦の世界に戻ってください。術師のためでも読者のためでもなく、私の日常の安定のために!