第7章 急接近
チュンチュンとテレビドラマの冒頭シーンで流れそうな雀の鳴き声が聞こえてきた。
春の陽射しが柔らかく注ぎ込む。相変わらずこの築50年の木造アパートの部屋は明るいとは言えないけれど、それでも冬の太陽に比べれば心なしか眩く感じる。
外の空気を吸いたくてベランダの窓を開けると、どこからか風に乗って桜の花びらが舞い込んできた。
もうすっかり春だなと感じる。
窓ガラスの結露は……もうない。
部屋に戻り、コーヒー一杯分のお湯を沸かした。無性に甘いコーヒーが飲みたくて。
昔使っていたムーミンの絵柄のマグカップにたっぷりのお砂糖とインスタントコーヒーをいれ、そっとお湯を注ぎ込む。
"いい香りだねぇ、インスタントでも千愛が淹れると美味いね"
"へへ。私優秀なファミレス社員だから"
"君んとこはドリンクバーでしょ"
あはは、なんて笑い声とふざけ混じりの会話が聞こえてきそうで耳を澄ましたけれど、それはどうやら頭の片隅に残っていた記憶の再現だったみたいだ。