第15章 最初で最後の嘘
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とうに八十歳を超えても生きておっただと?有り得ぬ…生まれつきの痣者とはいえ、そこまで身体が着いていくはずが無いではないか!!
黒死牟「有り得ぬ…何故生きておる…」
縁壱「お労しや兄上…」
憐れまれた…
私は可哀想な生き物なのか?だったら私は、あの時どうしたら良かったのだ!!
私を「兄上」と呼ぶ声は酷く嗄れていた
昔から余り感情の機微を見せなかった弟が涙を流している様に込み上げてくるものがあった
黒死牟「何も手に入れられなかった私を嘲笑いに来たか?」
その感情は嫉妬だった
縁壱「私が兄上を嘲笑う事など有りえませぬ…」
黒死牟「お前はまゆと子供を手に入れた…剣術も何もかも全て、お前には敵わなかったのだ。私が欲しかったものを、お前は全て手に入れたではないか!!」
あぁ、私には何も無い。求めるものが全て目の前から消えていくのだ
縁壱「まゆは兄上を愛しております。それは私と居ても変わらぬ事実」
黒死牟「まゆから聞いたのだな…」
まゆは既に生きてはいないだろう…。真に最期まで私を愛していてくれていたのか?死んだらお前に会えるのか?なぁまゆ…
縁壱「さぁ兄上。逝きましょう…お供致します」
縁壱は私を殺す気だ。無惨様のお役に立てずに死ぬ気などない。まゆに会える確証も無いのだ…ならば縁壱を殺さねばならぬ
人であった頃の肉の片割れを、全盛期を過ぎ脆い肉体の老人を
黒死牟「老いた肉体で私を殺せるとでも言うのか…」
奴が鬼狩りである限り、刃をむけてくる者は一刀両断にせねばならぬ
縁壱「これ以上、まゆを苦しませたくありませぬ故…」
今なんと言ったのだ…
黒死牟「まゆが苦しむだと……?」
縁壱が構えをとると両肩に岩を乗せられたが如く、威圧感で空気の重さが増した。構えには一分の隙もない
縁壱「参る」
私も構えて応戦するが、縁壱の威圧感で身体が上手く動かない
ゴパッ
私の頸から血が吹き出した
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