第9章 壁外調査 前日
心配していたナッツはちゃんと美味しくてイザベルはリヴァイの分を包む時に紅茶を減らしナッツを多めに入れていた
リヴァイは調理場の隅にある椅子に座りイザベルのイタズラに気付いていながら黙って紅茶を飲んでいる
冷ましたフィナンシェを全部包み 最後に焼いたパンプキンパイを1つは場所を借りたお礼に調理場の職員に渡して残りは私の部屋に持って戻った
ソファーの上には本をお腹に乗せて眠っているファーランがいて一瞬だけ地下街に戻った気がして懐かしく感じた
午後からは花壇を見にいきミニトマトに小さな緑色の実がついてるのを見つけて
「トマトってこんな風に出来るんだな!赤くなるのが楽しみだぜ」
イザベルは目をキラキラさせて見ていた
消灯時間がきてファーランとイザベルは兵舎に帰り リヴァイは私の部屋に残った
リヴァイは紅茶を入れに台所に行き 私は昼に食べ残したパンプキンパイをお皿に並べる
パイを並べる作業なんかすぐに終わるから大好きな人の匂いを嗅ぎに行く
「リヴァイ…」
後ろから抱きしめて頭をスンスンと吸う
「フッ…好きだなそれ」
「明日からしばらく吸えないもん」
「カナコ大丈夫だ… 3人で帰ってくるから」
首に回した私の左手にリヴァイは自分の左手を重ねた お互いの指輪に触れる
小指の赤い糸じゃないけど薬指が指輪で繋がっている感じがしてずっと不安定だった心が落ち着いていくのを感じた
「今日はずっと呼吸が浅くて心配だった やっといつものと同じになったな」
心がざわざわしている自覚はあったけど呼吸の深さまで違っていたんだ…
「10年…ずっと傍に…一緒にいたのはカナコだけだからな カナコの事は俺も少しは分かるようになった」
「夫婦みたいだね」
「みたいじゃねぇよ 夫婦だろ」
私が喜び照れて体温が上がりだした頃 紅茶が淹れ終わった
「奥さん このままも悪くねぇけど せっかく美味しい紅茶を淹れたんだ 一緒に飲みませんか?」
私に抱きしめられたままのリヴァイが言った
壁外調査の前日の夜はゆっくり紅茶を飲んで 少しだけ愛しあってからお互いの温もりと匂いに包まれて眠りについた