第7章 南海太郎朝尊という男
時間遡行軍が私を狙ってくるのは珍しいことでは無い。二ヶ月に一回のペースで遡行軍には狙われている。だが、今回は速すぎる。
前回、遡行軍が私を狙いに来たのは一昨日の話だ。そりゃ遡行軍だって決まった時に現れるとは限らないけど、よりによって怪我している男士が近くにいる時に来るなんて。
「せ、先生」
「大丈夫。僕の側にいなさい」
私が怯えてると思ったのか。先生は優しく告げた。
違う、そうじゃない。伝えたい言葉は音になる前に息を吸う音になる。私を抱えながら戦っている先生に、唇を噛むことしか出来ない。
どうしよう。守らなくちゃ。未来のために、過去のために戦う彼を。守らなくちゃ。どうやって?
考えてる暇はなかった。先生が遡行軍と距離を取り、間合いを測ってる隙に、先生の胸を強く押した。
「っ、君!」
「来なさい、遡行軍!!」
私を護ろうとする手から逃げて遡行軍に向けて言い放つ。
どうすることも出来ない。このまま大人しくしていても足でまといだ。逃げていても足でまといなのはわかってる。でも、彼を傷つけるくらいなら逃げるを選択する。
遡行軍の狙いは私だもの。
「怖気付いたの?」
戸惑っている様子の遡行軍を鼻で笑えば、遡行軍はすぐに矛先を私に向ける。それでいい。それでいいの。
先生が何かを言っているけど聞く耳はない。これは私のエゴで、私が。
「貴方を守りたいだけ」
遡行軍が突撃してくる前にその場から走って遠さがった。先生が私を追ってくるのもわかってる。でも歴史を守るために顕現された彼を、私なんかを守ったせいで傷を作りたくない。
それに彼に傷が増えればどこかで何かをしていたことが審神者にバレてしまう確率が高くなる。男士達、全員が危うくなる。そんなことはさせない。
木々の影を使いながら走り回る。体力は無い。もう足が痛い。唯一の救いは、遡行軍側に短刀が居ないこと。槍と大太刀だけなら時間は稼げる。
これは仮説だが、隣の本丸はあまり育成がされていない。良くて50止まりだ。そう、良くてなのだ。南海先生は強いとは言えない。体の動きにブレがあった。槍に攻撃されたら、大太刀に攻撃されたら……。
切り開けた場所に出た。木が無い。隠れる場所も。
「おいでよ、私はここだよ」
追いついた遡行軍に振り向きながら笑みを浮かべた。