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お隣さんはブラック本丸

第2章 出会い


 大きな門を前にゴクリと息を飲んだ。さっき見た少年、小夜左文字は本物なのだろうか。もし、本物だとしたらとんでもない世界に私は生まれたことになる。
 平行世界。表現するならそれが一番正しいだろう。保育園の先生や両親が同じだったことから恐らく。
 考えを振り払ってご近所挨拶をしてこいと言われたことを思い出し、門に近づくが子どもと大人の差が故か、子どもでは門の近くにあるインターホンを押すことが出来ない。というかそもそも子ども1人に挨拶回りを行かせるな。
 どうしよう。声出せば聞こえるかな。でも体が、この家に入るのを拒否してる。空気が重たく感じて今すぐ逃げ出してしまいたい。
 居なかったってことにして帰ろうとした時、目の前の門がゆっくりと開いた。ふわと吹く風が屋敷から来てるものなのか、ぞわりとした悪寒が背筋に走った。

「おや……君は?」

 前世で散々聞いた声が上から降ってきた。恐る恐る上を見上げれば、目に優しい色を着た優しげな雰囲気の大男がいた。紫の瞳と交差して思わず後退ると、大男もとい、石切丸が私の視線に合わせるようにしゃがみ込んだ。

「あ……お、おとなりにこしてきました苗字です……そ、そまつなものです」

 子どもっぽい声を上げてそっと差し出したお菓子の詰め合わせは、果たしてこの家の者に足りるかどうか。
 少しの間のあと、ふわりと優しく微笑んだ彼は私の頭を撫でた。頭に確かに感じた熱は本物で、間違いなく刀剣男士が存在している証明になった。
 石切丸がお菓子の詰め合わせを受け取ったのを確認しながら、ちらりと屋敷の中を眺める。別に特に変わったことは無い大きな屋敷だ。これがこの地の本丸……。

「気になるかい?」

 優しくかけられた声にビクつきながら石切丸を見上げれば、慈愛に溢れた瞳で私を見つめていた。 
 石切丸の視線に負け、ゆっくりと頷けば彼は微かに笑って私を片手で軽々と抱き上げた。思わず石切丸の肩を小さな手で軽く掴めば、また石切丸は穏やかに笑った。
 石切丸が本丸に私を抱えながら戻った。見知らぬ人間を本丸に入れていいのかと思ったが、地域密着型本丸ならそれも有りうるのだろうと勝手に決めつけて無理矢理納得させる。
 石切丸の視界の高さに感動しながら、キョロキョロと辺りを見渡す。庭のはずなのに遊んでいる刀達の姿は無く、じんわりと違和感が広がっていく感覚がした。
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