• テキストサイズ

お隣さんはブラック本丸

第3章 お隣さん 男士視点


 縮こまったままの女は風呂上がりのおれを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。江組の部屋にいたらしく、江の顔面の良さがどうのこうのと呟いている。
 おれの後ろについた女を、自室へと連れて行く。外は豪雨だ。庭で散歩するのが好きな女にとっては、何も面白くはないだろう。

「肥前」
「あん?」
「濡れてる」

 おれの頭を指差して言った。別に気にする事はねぇと告げれば、不服そうに眉間に皺を寄せた。おれが何かを言うよりも早く、どこかへと走り出した。
 ぱたぱたと小さな足音で戻ってきた手にはタオルとドライヤーがある。あぁ、江の部屋から借りてきたのか。
 おすわりとおれに告げておれの背後に立つ。コンセントをいち早く探し出してドライヤーでおれの髪を乾かし始めた。

「楽しいか?」
「気に言ってる奴を世話するのは好きだよ」
「……もの好き」
「ありがと」
「褒めてねぇよ」

 おれの髪を乾かす手は優しい。それでいて慣れている。確りと乾かすように動かす手は、壊れ物にでも触れるかのようだ。
 恐らくこいつは何となくおれ達のことを知っている。はじめてこいつを見た時、言っていた言葉が"あれ"だったから。
 物に当たればいいってもんじゃない。確かにそう告げていた。それはおれ達が少なからず人間ではないとわかってる発言だ。
 耳元で鳴っていた電子の風音が消えた。ひとの頭を優しく撫でて終わりと小さく呟いた、女の、ガキの腕を引っ張り抱き寄せる。

「わ!」

 小さな体はまだ冷たい。風呂を遠慮したからか。それとも、元々冷え性なのか。
 子どもと言うのは体温が高いんじゃなかったのか。詳しくはおれも知らねぇけど。ひやりとおれの頬に冷たい、小さな手が触れた。
 不思議と嫌じゃないそれに顔を動かして見つめれば、おれを見つめながらいつになく真剣な顔で口を開いた。

「幼女好きなの?」
「はっ倒すぞ」

 片手で頭を掴み少しだけ力を込めて答えれば、大暴れしながらだってと言う。それ以上言わせないように、あんただからだと伝えれば不思議そうな顔をしておれを見つめた。
 変なのと呟いた声はしっかりとおれに届いてる。何かを言おうとして、小さな手に両頬を包まれた。

「お前も優しいね」

 突然なんだ。とは、言えなかった。言うよりも先に、頭を小さな体で抱きしめられた。
 あぁ、こいつはずっと大人なんだな。冷えた熱に安心を覚えた。
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp