第6章 素直 後編【※錆兎】
……でも、待てよ?…これは俺にとっては朗報じゃないのか、こいつはまだ、他の男の物でも…、ましてや義勇の物でもない。
錆兎が顔を上げて、陽華の顔を見ながら、再度確認するように問いかけた。
「…じゃあ、あの時が初めてだったって言うのは、間違いないんだよな?」
「そうよ。」
「俺以外と、したことは…ないんだよな?」
「……そうよ。」
陽華が恥ずかしそうにぶっきら棒に答える。すると突然、錆兎の手が陽華の腕を掴んで引き寄せた。そのまま、錆兎の胸の中に抱きすくめられ、陽華は驚いて、身体を強張らせた。
「ちょっとっ!……何するのよ。」
固まる陽華の首筋に、錆兎は顔を埋めると、はぁーっと息を吐いた。
「………めちゃくちゃ、嬉しい。」
「な、何であんたが…嬉しがるのよ。」
錆兎から離れようと腕に力が籠める陽華を、逃さないように強く抱き締めると、その耳元で叫んだ。
「好きだからだよ!!」
「っ!?」
錆兎は身体を起こすと、陽華の肩を掴み、その目をまっすぐに見つめた。
「お前の事が、好きだからだ!」
「……嘘。…だって、私…、貴方にひどいこと…しか、言ってない。」
陽華が驚いて目を見開いたまま、錆兎を見た。その言葉を聞いて、思わず錆兎は笑った。
「はは…確かに。ひどいことしか、言われてないよな。俺はそっちの気でもあるのかな?……でも、長い付き合いなんだ。本当のお前は、知っているつもりだ。」
そう言って、錆兎は優しく微笑んだ。
「本当のお前は仲間想いで、仲間のために命を掛けたり、死んだ仲間を想って、涙を流せる優しい奴だって、知ってるから。」
「……錆兎、」
「そんなお前だから、同期や後輩からも慕われてて、そんな奴らや義勇に見せる笑顔が、羨ましいくらいに可愛くてさ。
……いつか俺にも、そんな笑顔を向けてくれる日が来るんじゃないかって、そんなこと勝手に想像して、期待して、会うたびに小さな変化に、ドキドキしてる自分がいるんだ。」
優しい顔で、自分のことを語る錆兎を直視出来ずに、陽華は視線を下に向けた。