第6章 素直 後編【※錆兎】
どれくらい水の中にいただろうか。
段々と、水の圧力がなくなり、水面に浮いた錆兎たちの身体は、ゆっくりと下流へと流れ始めた。
暫くすると浅瀬に辿り着き、錆兎は陽華を抱えたまま立ち上がると、岸へと上がった。
そのまま岩場に陽華を寝かせ、自分はその隣に力尽きたように座り込む。
「はぁ…はぁ…。なんとか…生きてたな。」
そう言って、苦笑いを浮かべる錆兎の姿を横目で見ながら、陽華は荒くなった息を整えると、呆れたように錆兎を睨みつけた。
「……アンタ、馬鹿なの?将来有望な、若い隊士を助けるならまだしも、同期の、目も出ないような一般隊士を助けるために、命を掛けるなんて。」
「俺は、自分の責務を果たしただけだ。」
「柱は貴重なのよ?誰もがなれるわけじゃない!なのに、アンタが死んだら…それこそっ、」
「どんな理由があっても、目の前に助けられる命があるなら、俺は見捨てることはしない。それはお前だって、同じだろ?」
そう言われて、陽華は黙り込んだ。救えない命をたくさん見てきてる。救えるなら、自分も最後まで諦めない。
陽華が黙っていると、錆兎がにこやかに笑いながら言った。
「今は二人で助かったんだから、いいだろ?……ほら、立てるか?」
錆兎が立ち上がり、陽華に向かって手を伸ばした。
陽華はその手を掴み、ゆっくりと身体を起こすが、立ち上がったところでフラつき、錆兎の腕に寄りかかった。
滝に落ちた恐怖が、思っていたよりも腰に来ていたようで、少し足が震えていた。
「なんだ、立てないのか?なら、小屋まで、お姫様抱っこでもしてやろうか?」
そう言って錆兎が茶化すと、陽華は怒った顔で、錆兎を軽く突き飛ばし、フラフラと自分の力で歩き始めた。
しかし、ちょっと歩くと、立ち止まり、背を向けながら小さく呟いた。
「……まだ、言ってなかったけど…、助けてくれて、ありがとう。」
その言葉に、錆兎の顔が嬉しそうに綻んだ。
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小屋に着くと、錆兎は陽華に小屋内にあった身体を覆えそうな薄手の布地を渡し、濡れた服を脱ぐように促した。
陽華が服を脱いでる最中、錆兎は囲炉裏に火を起こす。
「ほら、濡れた服、寄こせ。」