第5章 素直 中編【※錆兎】
「はぁ…はぁ…、」
陽華はある程度走り切ると、立ち止まり、後ろを振り返った。錆兎が追ってきていないことがわかると、ホッと一息つく。
辺りはもう、真っ暗になっていた。
「はぁ…。アイツ、いつまでも私のこと下に見てっ!」
イラつきで、小道の石を蹴り上げる。
だが実際、下なのは間違いない。錆兎の実力はよくわかってる。長い付き合いだ。自分なんかじゃ、到底勝てないことも。
でもいつまでも、錆兎のオマケ扱いはもう嫌だった。只でさえ、錆兎の同期は、鬼殺隊の中でも肩身が狭い。
あの選別を、自分の力で生き抜いたわけじゃないからだ。
その中でも、義勇は元から実力があったから、とやかく言う奴もいなくなったが、陽華と村田辺りには、いつまでも錆兎のオマケというレッテルがついて回る。
どんなに修行して、どんなに鬼を斬って、甲の階級に就いても、錆兎のそして義勇の、おこぼれに預かっただけだと揶揄され、実力を見てもらえない。
はじめから明るい性格の村田は、気にすることないと言うが、陽華には、そんな状態が歯痒くて仕方がなかった。
だから今日も、錆兎の発言にイライラして、逃げ出してしまった。
だけど、本当はわかっている。錆兎の行動は全て、他人の為。自分たちの為だと。
さっきだって、決して下に見てるわけじゃない。心配してくれただけだと。
でも、錆兎との出合いが、今のこんな状態が、どうしても錆兎に対して素直になれない原因の一因でもあった。
陽華は山を見渡すと、大きくため息を付いた。
その時だった。
ガサッ!
突然、後ろから物音が聞こえた。陽華が慌てて振り向いた。暗闇の中、目を凝らすと、野生の小動物がじっとこちらを見ていた。
その視線は、山に足を踏み入れたよそ者を威嚇するわけでもなく、じっと様子を伺っているように見える。
まるで、監視されているような、そんな気がして、陽華は背中に寒いものを感じた。
その時の陽華は、気づかなかった。
その小動物に気を取られ、背後から敵の手が、忍び寄ってることに。