第5章 素直 中編【※錆兎】
小屋の中に入ると、中は綺麗に掃除され、整頓されていた。
囲炉裏や竈もあり、布団まで完備していて、生活感もあった。もしかしたら、山の管理を任せていたと言う、夫婦の家なのかもしれないと、錆兎は頭の隅で思った。
部屋の隅に荷物を置いて、準備を整えると、横に置いてあった陽華の荷物が目に入る。そこには、例の義勇とお揃いのガラス玉の装飾品が付いていた。
陽華の目の色、薄茶のガラス玉と、もう一つ。
(……まだ村田に渡してないのか?)
錆兎が不思議に思い、首を傾げる。でもこのガラス玉の色は、村田の色じゃない。
薄く青みがかった灰色のガラス玉。
(………この色、どっかで。)
「何してるのよ!」
突然、陽華に後ろから声を掛けられ、錆兎はビクッとして、振り向いた。
「早く行かないと、もう日が暮れるわよ!」
「あぁ、済まない。」
錆兎が慌てて、外に出る。それを確認すると、陽華が目の前の山を見渡しながら言った。
「かなり、広いわね。二手に別れましょ?」
そう言って、スタスタと歩き出す陽華の手首を、錆兎が慌てて捕まえた。
「おい、勝手な行動はするなっ!俺が呼ばれた意味がわからないのか?十二鬼月が、いるかもしれないんだぞっ!?」
「わかってるわよっ!」
陽華が錆兎の手を振り払った。
「私だって、十二鬼月の下弦くらいなら、もう倒せるわっ!余計な心配はしないで!」
「お前の実力はわかってる。でも、過信はするな。今日は義勇だっていないんだ。おとなしく、俺の傍にいろ!」
陽華を諭すように、錆兎が声を荒らげて説得する。しかし、陽華は上目遣いに錆兎を睨みつけると、小さく呟いた。
「……いつまでも、オマケみたいな扱いしないで。」
「は?…俺はお前を心配して…、」
「…それがお節介だって言うのよ。私だって、一人でも出来るっ!もう、邪魔しないでよっ!」
そう言って、陽華は目の前の山に向かい、走り出してしまった。
その後ろ姿を追おうと、錆兎が動きかけたがやめた。後を追っても、陽華は逃げるだけだ。
錆兎は苦々しい顔で、周りの木々を見渡した。
「くそっ!…こうなりゃ、俺が先に見つけて、倒すしかないっ!」
錆兎は暗くなっていく山に向かい、走り出した。