第4章 素直 前編【※錆兎】
山にいた鬼どもを一掃し、一息付くと、陽華は錆兎に詰め寄った。
「錆兎っ!アンタ、何回言ったらわかるの、アイツは私の獲物だったのよっ!」
「お前がぼーっとしてるから、助けてやったんだ。文句を言われる筋合いはない。」
錆兎がそう言い返すと、陽華は強く錆兎を睨みつけた。
「それが余計なお世話だって言うのよ、自分でやれたわ!」
「そうか?俺には、一匹程度やっつけただけで満足して、隙だらけに見えたがな。」
「なんですってっ!」
目の前で始まったいつもの光景に、義勇はため息を付きながら、二人に近づいた。
「お前達、いい加減にしろっ!」
義勇にそう一喝され、二人が黙り込む。
「顔を合わせれば、喧嘩ばっかり。もう数少ない同期なんだ。もっと、仲良くしろ。」
義勇の言葉に、陽華はプイッとそっぽを向いた。その態度を見かねた義勇が、陽華に声をかけた。
「陽華、お前だけだ。錆兎にそんな態度を取るのは。」
その言葉に、陽華はフンッと鼻を鳴らした。
「そうでしょうね。皆から頼られ、慕われる、水柱の錆兎様は、それは素晴らしい人格者であらせられるもの。私にはただの傲慢な、お節介野郎にしか、見えないけど。」
「お前な!」
錆兎が言い返そうとしたその時だった。西の空の方から、鴉の鳴き声が聞こえた。
「寛三郎!」
その鴉は、義勇の鎹鴉の寛三郎だった。年老いた寛三郎は、ヨボヨボな足取りで義勇の肩に停まると、次の任務内容を伝えた。それが聞き終わると、義勇は二人に向き直り、こう告げた。
「俺は次の任務が入った。先に行くが、もう喧嘩はするな。」
釘を指すように言う。陽華は「はーい。」とぶっきら棒に答え、義勇の顔を見た。
「義勇、気を付けてね?」
そう言って、優しく微笑む。
「陽華、ありがとう。行ってくる。」
その笑顔に義勇も微笑み返し、寛三郎と共に次の任務へと向かっていった。
それを見ていた錆兎が、陽華に目線を向けた。
「何よ?」
「いや…別に。」
(…そんな笑顔、俺に向けたことなんか、一度もないな。)
思えば陽華とは、出会いから最悪だった。