第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
松「いちかちゃん来るの、俺たち待ってていい?」
「え?」
花「せっかくだから一緒に帰ろうよ」
「あ、うん…」
花「じゃそこのコンビニで待ってるから」
「……うん、分かった。じゃあまた後でね」
やっと終わったか。コンビニに向かう三人に俺はため息しかでない。こいつらのやりとりを聞いていただけなのに無駄に疲れた。
つっかかってきた双子の片割れは最後まで俺たちを睨むような表情だった。まぁ及川の態度もムカつくのは分かるけど、向こうも褒められた態度じゃねぇよな。そう思いながら遅れて背を向けた。
「なぁ…」
ふいに呼ばれた声に振り返ると双子じゃない方の奴が俺を真っ直ぐに見つめている。なんとなく重い空気に俺も身構える。
「何だよ」
「あんたが…、ハジメクン、やろ?」
「……そうだけど」
「うちのいちかがお世話になってます、って言うといた方がええ?」
「家族かなんかか?」
いや?幼馴染や。いちかがどんな男に惚れとんか知りたかったし会えて良かったわ」
いちかがあの夜に会いたい…って言ってた幼馴染の“シンスケ”。なんとなくそんな雰囲気はあったけど初めて顔を合わせたにしては挑発的で威圧的な感じがした。
「どういう意味だよ」
「もし会えたら一言言わせてもらいたかってん」
「何だよ」
「いちかの気持ちは知ってんやろ?」
「何だよ、急に」
「急も何もないやろ?俺にしてみたらはよはっきりさせぇやとしか思わんな。ハジメクンがもたもたしてんやったら、いちかは返してもらうから」
「は?」
「俺はいつでも奪い返す気でおるから、それだけ覚えといて?ほな、またな。…ハジメクン」
「おい…っ」
意味深な言葉と含み笑いを残して去って行った。
「…………なんなんだよ、言いたいことだけ言いやがって」
あのシンスケとやらの態度を見てもいちかのことが好きなのなんて鈍感な俺にだって分かる。
けど俺に対する宣戦布告もいちかのシンスケに対する態度、向けた笑顔も何一つ気に入らなかった。
俺たちのところに戻ってきたいちかの顔を見た時、俺はいちかが好きなんだってはっきりと気付いた。
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