第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
≫花巻side
まだ午後の練習が始まったばっかだというのにこの茹だるような暑さに嫌気がさしていた。朝から熱中症アラートがいくら警戒を呼びかけたって部活があるんじゃ意味がない。
氷水で濡らしたタオルももうぬるい。もう一度絞り直すのも面倒でパイプ椅子に寄り掛かるように座るともう動けなかった。
「花巻さん、サポーターとテーピングってこれでよかったんですか?」
買い出しに出ていた矢巾が帰ってきた。この暑さでも一人涼しげに爽やか面晒してられるのが憎い。
「あー、うん。これでいいと思う。その辺置いといて…」
「なんかバテてます?」
「だって暑いもん。この暑さじゃ何もしなくても無理。」
「さっき溝口コーチが今日は熱中症アラートが出てるから練習は切り上げるって言ってましたよ?」
「え?まじ?」
「ほんとです。今日は各々片付けたら挨拶なしで解散していいらしいです」
「そうなの?」
「この暑さで部活してるのうちだけらしくてコーチ慌ててました」
「そりゃそうだろう。なんもしなくても熱中症になるわ、こんなの」
ギラつく容赦ない太陽の光がアスファルトを照らす。フライパンを置くと目玉焼きもできるんじゃないかってくらい。拭き取っても流れてくる汗が目に沁みて痛い。
「あーもう俺、家まで持つかな」
「倒れないでくださいよ?」
「倒れた時はよろしくぅ」
そう言いながら俺は矢巾にもたれかかった。この後、彼女とのデートの約束でもあれば頑張れそうなものの生憎彼女は今はいない。矢巾も案外可愛い顔してるんな…って俺、マジでヤバい。
「ちょっと花巻さん…ってば、冗談やめてください。……あ、岩泉さぁーん!助けてくださぁーい!」